20gに必要なもの 前編

この日、るんるんは美容院にいた。

 

 

何のためって、もちろん髪を切るためだし、特段、いつもと異なるオーダーはしていない。いつも以上に切る量が多いということを除いては。

 

 

月末のこの日まで髪を切らなかったことには理由がある。まずはスト値が下がること、そして、今月の好調を、勢いを維持したいがための願掛けだ。なんとなく、切らない方が良い気がして、ずるずると2ヶ月近く間が空いてしまった。

 

 

でも、そんな神頼みをしてしまう弱い自分に嫌気がさして、20gがかかるこの日、あえて髪を切った。

 

 

(多少のスト値の変動や勢いなんて関係ない。PUAですから。)

 

 

そんなことを考えながら、待ち合わせ場所に向かう。

 

 

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今日の相手は、

スト5/青/24/アパレル/Bくらい

ちっちゃくて可愛い感じの女の子。

仕事が遅くなるようで、アポの時間も遅めにした。

 

る「あれー?身長縮んだ?笑」

チ「違います!!笑」 

 

いつも通り、テンション高めの待ち合わせ。Mっぽい子だったので、ネグも入れてみた。

今夜のお店は月中無敗。立地も味も良いお気に入りのお店だ。

 

る「これが美味しいんだよね。」

 

可愛らしい彼女に対して、お兄さんになったつもりで接する。

 

 

スタートは順調。テンション高め、6:4のトーク配分で場を温めつつ、開示を入れていく。無駄な嘘はいらない。

 

 

一杯目のお酒がなくなる頃、トーク配分を3:7に変えて、相手の話に耳を傾ける。

経歴に不自然な部分があって、少し深掘りしてみる。

 

 

彼女は見かけの雰囲気とは違って、きっちりと自分の人生を歩んでいた。

昔、大きな挫折を経験し、何度も諦めそうになった。それでも、環境を変え、努力を重ね、再び自分の夢を叶えようとしている。そんな芯の通った女性だった。

 

 

ナンパをしていると、時に自分の思いとは異なることを言わなくてはならない時がある。人として好きだと思えない相手に、真逆の言葉を吐いたり、目を輝かせて興味のない話を聞く。そうでなくては即れないからだ。

 

 

でも、彼女に対しては必要ない。シンプルに素敵だと思えたし、何より、少し自分と似た部分があって、話に聞き入ってしまえた。

 

 

ふと、我に返る。

時刻は22:30。和みはもう十分だろう。チビ子の終電を考えると、ちょうど良い時間だろうか。

話の区切りと同時にトイレに行き、流れを作り始める。用を済ませて鏡を見ると、そこには自信に溢れた自分がいた。

 

 

(さぁ、いこうか。今月最後の戦いだ。)

 

 

いつも通り、仲良しメンバーのグループに打診する旨を書き込んで、トイレを出た。

 

 

 

 

 

 

席に戻ると素早く会計を依頼し、暖かいお茶二つ注文する。あたかもこのまま解散するようなフリをして、今日デートの感想を述べる。

  

る「いい話聞けたよ。楽しかった!」

チ「なんかしゃべりすぎてしまいましたね。笑」

 

店を出ると、階段を降りる助けをする流れで、彼女の手を握る。緊張したフリをして、目を合わせない。

 

 

小雨が降る中、二人は無言でホテルに向かっていた。

 

チ「どこに行くんですか?」

 

少し歩いたところで、チビ子が聞く。相変わらず、目を背けたまま、話し始める。

最初にあった時に思ったことと、今日会って感じたこと、そして、「もう少し一緒にいて欲しい」と。最後のセリフの瞬間だけは、相手の目を見る。

 

 

文書にしてみると、我ながら気持ち悪い。けど、女の子から悪いリアクションが返ってきたことはない。今回もそうだ。

スルリとホテルの門を通り抜ける…

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

チ「今日は帰ります(^^)」

 

(おいおい。まじかよ。)

 

 

予想外の反応に困惑しつつも、グダ崩しにシフトする。色っぽくなるから使いたくないけど、俗に言う運命トーク。泥臭くて、かっこ悪いけど、ホテルの前で。

 

チ「別にホテルに行きたくないわけじゃないんです。」

 

彼女は堂々と言い切った。

 

 

体調グダ。理由はその一点だった。

元々良いと思っていたし、今日も楽しみにしていた。けど、前日から体調が悪くて、キャンセルしようか悩んだけど、せっかく予約してくれたし、遅い時間まで待ってくれるし、何より話してみたかった。

 

 

彼女はそう続けた。恐らく嘘はないだろう。

仕事にプライドを持っている彼女の体調グダ。崩せる気がしなかった。

 

る「わかった。」

 

努めて平静を装いつつ、彼女を見送る。

 

 

(まだ大丈夫。時間は早い。)

(ストで十分に戦える。)

 

 

自分に言い聞かせるように、次の手を考える。それしかできなかった。

 

 

チビ子を送り届けた後、すぐに街に向かう。

 

 

(なんで、こうなるんだ。)

(最後の最後に…)

 

 

一人になると、負の感情が止まらなくなる。

 

 

(いつもそうだ。勝負どころで負ける。)

(あんなグダ崩せるわけがない。いや。そもそも崩しちゃダメなグダじゃねえか。)

 

 

気がつくと、毎日のように通っているSチカにも関わらず、自分がどこにいるかわからなくなっていた。

 

 

(あぁ。みんな応援してくれたのに。)

(わけがわからない。)

(なんで調子こいて髪きったかなぁ…)

 

 

なんとか外に出る。

するとそこには、雨風に晒され、完全に死んだSの街が広がっていた。

 

 

ど平日の23時。荒天。そしてなにより、崩れたマインドが、ゲームの終わりを告げていた。

 

 

(ダメだ。)

(ここからの逆転は、、、ない。)

 

 

思わず、その場にしゃがみ込むと、タバコに火をつける。

ただ、ただ、人のいない街をぼんやりと眺めていた。

 

 

(帰ろう。)

(明日も仕事だ。)

 

 

月20g。

それは凡庸な自分にとって、決して手が届かないレベルのはずだった。それでも仲間達の助けや奇跡的な巡り合わせもあって、なんとか手が届きそうなところまできた。

結果的には届かなくても、大きな目標に向けて全力を尽くしたこの1ヶ月は無駄にはならないだろう。

 

 

(いつか、、、いつか必ず達成してやる。)

(今年、もう一度チャレンジしよ、、、、、、)

 

 

 

 

??「やれやれ。」

 

 

る「え?」

 

 

??「これだからスト低はwww」

 

 

??「話おもんなすぎたんやろw」

 

 

??「行くぞ。勝負は終わってない。」

 

 

 

 

、、、後編に続く